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完食指導が心の傷に?誰もが食事を楽しむためには
2025/01/29

食べ物を大切にするのは日本人の素晴らしい一面です。しかし行き過ぎた完食指導で心に傷を負う子もいることを忘れてはなりません。
給食を残さず食べることを無理に指導する「完食指導」について。以前の連載「『完食指導』を考える 食べられない子どもたち」に対し、多くの反響をいただきました。この記事では、読者の皆さまから寄せられた声と、識者への取材を通じて、この問題における課題を考察します。
(※2024年11月20日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

給食指導の影響と食事への苦悩・・・楽しく食べる工夫を考える

名古屋市に住む53歳の女性は、幼い頃から小食で、小学校1~2年生の頃は給食を食べきれず、掃除の時間まで1人で席に残されることがありました。
献立表を見て食べられそうにない日には朝から熱が出てしまい、学校を休みがちになったといいます。
心配した母親に精神科病院へ連れて行かれ、様々な検査を受けたものの病気ではないと診断されました。
追い詰められた母親から「病気じゃないなら学校に行けるでしょ」「行けないなら一緒に死のう」と言われた経験は、彼女に「給食を食べられない人は生きる資格がないのか」と思わせ、自己肯定感を失わせました。
しかし、小学3年生のときに担任が代わり、「無理しなくていいよ。最初から少なめに盛ってもらおう」と優しく声をかけてもらったことで救われた気分になり、不思議と食欲も湧いてきました。
それからは次第に給食を減らしたり残したりすることがなくなったそうです。
それでも、完食指導の影響があるのか、大人になった今でも「食事はストレス」という感覚が残っています。
特に、仕事の接待やコース料理の場では、みんなと同じペースで同じ量を食べることが難しく、迷惑をかけてしまうと感じることもあります。
アルコールや処方薬を使って不安をやり過ごしながら対応しているとのことです。
彼女は「みんなが同じである必要はない、と認めてもらいたい」と訴えています。食事を楽しいものにするための工夫や配慮の必要性が浮き彫りになるエピソードです。

完食指導の現場で感じた無力感、元保育士が語る子どもへの配慮の必要性

完食指導に疑問を抱きながらも「子どもたちを守れなかった」と悔やむ元保育士の女性(72)がいます。
彼女は、東京都や埼玉県で約25年間保育園に勤めていました。
ある保育園では、子どもが嫌がるおかずを少量だけ取り分けて「これなら食べられるでしょ」と言い、子どもが何とか食べると「ほら、食べられるじゃない。食べられるんだから全部食べなさい」と迫る保育士がいました。
これに対し、子どもたちも対策を講じ、お皿を運ぶ途中でわざと落として捨てることを楽しげに行う姿も目撃されました。
完食指導だけではなく、人権意識に欠ける対応も多く見られました。
例えば、牛乳を飲んだ後のコップにそのまま麦茶を注ぎ、白く濁った麦茶を子どもに飲ませることが日常的に行われていました。
これを見かねてコップをゆすごうとする若い保育士がいた際には、先輩保育士から「忙しいのに余計なことをしないで」と叱られることもあったといいます。
女性はこのような状況を見かねて、市役所の担当部署に相談しましたが、何も改善されなかったそうです。
「嫌なことを強制するのは虐待と同じ。子どもの心を何より大切にしてほしい」と彼女は切実に語っています。

食事を楽しい時間にする。栄養士が語る声かけの重要性と課題

「食事の場での工夫がもっと必要ではないか」という声が読者から寄せられています。
川崎市在住の51歳の女性は、栄養士として今年4月まで市内の保育園で勤務していました。
「おいしいね!」「カルシウムがたっぷりで骨が丈夫になるんだよ」と声をかけるのが上手な保育士がいるクラスでは、残飯が少ない傾向が見られました。
しかし、多くの場合、人手不足の影響で子どものお皿が空くと慌ただしく片付け、「食べ残してもいいから早く片付けて休憩したい」という雰囲気が漂っていたといいます。
こうした状況では、子どもたちへの声かけがほとんど行われず、大量の残飯が出る現実に衝撃を受けました。
「旬の食材や様々な味を体験してほしいと一生懸命作ったのに……」と落ち込む日々もあったそうです。
給食会議の場で、「子どもたちが楽しく食べられるような声かけの工夫をしてほしい」と提案しましたが、「食事を強制するのはできない」「子どもにも人権がある」との返答が返ってきました。
しかし女性は、「子どもたちは先生の行動をよく見ている」と感じています。
だからこそ、保育の専門家である保育士には、時には子どもをおだてながら、食事の楽しさを広げる努力をしてほしいと願っています。

誰もが食事を楽しむために必要な配慮

一昨年、全国の保育施設で完食を強要したり、給食を無理やり口に入れるなどの不適切な指導が相次いで明らかになりました。
子どもの偏食は「好き嫌い」や「わがまま」と受け取られがちですが、その背景には発達障害や家庭環境など、予想外の原因が潜んでいる可能性があります。
偏食や小食であっても、誰もが安心して食事を楽しめる環境を整えることが、今後の課題といえるでしょう。